ファナック(FANUC)のCNC 15シリーズは、PMC-Nモデルを使用していることで知られています。このPMC-Nは通常、ROMカセットの形で設備に装着されています。このPMCデータが消失してしまうと、設備の運転が不可能となるため、ROMデータのバックアップや予備のROMを準備しておくことが非常に重要です。
もし設備メーカーが作成したデータや新しいROMを提供してくれるのであれば安心ですが、メーカーが対応してくれない場合や、ROMデータが消失・破損した場合、設備は使用不能になります。そのため、設備ユーザー自身でバックアップを取る必要があります。本記事では、特に簡単な手順でバックアップを作成する方法を紹介します。ただし、機種や状況によって手順が異なる場合があるため、事前に現物を確認することをおすすめします。
PMCカセットの種類とROMメモリの構造
PMCカセット内のROMは、一般的に**EPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)**と呼ばれる記憶媒体が使用されています。ファナック15シリーズのPMCカセットには、以下のような種類があります。
- PMC CASSETTE A
ROMタイプ: 27C256 × 2個
最も容量が少ないモデル。 - PMC CASSETTE B
ROMタイプ: 27C512 × 2個
CASSETTE Aの2倍の容量。 - PMC CASSETTE C
ROMタイプ: 27C1001 × 2個
CASSETTE Bのさらに2倍の容量。
バックアップを取る際は、これらのROMチップと同じ型式、または互換性のある型式を用意してください。特におすすめは、予備として4個(2セット分)を準備することです。万が一、次に故障した際のためにも、複数セットを用意しておくと安心です。
PMCカセットからROMを取り外す手順
事前準備
PMCカセットを取り外す際には、静電気対策が重要です。体に溜まった静電気は、機器やROMチップの故障原因となるため、制御盤のアース板に触れて静電気を逃がしましょう。その後、PMCカセットの上下2箇所のネジを緩め、CNC制御装置の基板コネクタから慎重にカセットを取り外します。
カセットの内部確認
カセットを開けると、内部のプリント基板が確認できます。ここで、以下をチェックしてください。
- ICソケットの有無:ROMの抜き差しが可能かどうか確認します。古いタイプは基板に直接半田付けされている場合があります。
- ROMの型式と装着方向:ROMの上面には切り欠きがあり、装着方向を示しています。基板やソケットにも切り欠きのマークがあるため、それに合わせて装着します。
- H/Lなどの識別:複数個のROMがある場合、それぞれのチップにマークやメモをしておき、どの場所に装着されていたか記録します。
ICソケットでROMが装着されている場合はこの記事の方法でバックアップコピーの作成が可能です。PMCカセットは2本のネジとナットでケースが合わさっているので、このネジを緩めて内部のプリント基板を取り出します。
もしROMチップがプリント基板に直接はんだ付けされている場合、ROMデータの読み取りはFANUCの機材を使用してPMCカセットから読み出すことになります。この場合はお問い合わせフォームからPMCラダー屋へご相談ください。
ROMチップの取り外し
静電気対策を継続しながら、専用のリムーバーやIC抜き工具を使用してROMを外します。工具がない場合、マイナスドライバーでも可能ですが、チップの足や本体を破損しないよう注意が必要です。また、セラミック筐体を持つROMの場合、上面と下面のパッケージが接着されていますが、このパッケージ本体の貼り合わせ面が剥がれないよう、ROMパッケージに無理な力がかからないように慎重に扱いましょう。貼り合わせが分離してしまうと内部に空気が入り、半導体部分が徐々に酸化して性能やデータの保持に影響が出ます。
ROMデータのバックアップ手順
必要な機材
バックアップには、市販のROMライター(リーダーライター)が使用できます。現在主流のものは、WindowsパソコンにUSB接続して使用するタイプです。ポイントは、コピーするROMのピン数(例:27C256/512は28ピン、27C1001は32ピン)に対応したROMライターを選ぶことです。
データの読み取り
- ROMライターにROMをセットします。この際、半円状の切り欠き方向を確認してください。
- ROMライターのソフトウェアで、ROMチップの型式または互換性のある型式を選択します。
- 読み取りを実行します。読み取りが成功したら、できればデータをパソコンに保存します。
新しいROMへの書き込み
- 新しいROMチップをセットし、型式を設定します。
- データをライターで書き込みます。この際、事前にブランクチェックを行い、書き込み可能な状態であることを確認してください。
- 書き込み後、データの照合(ベリファイ)を行い、正確にコピーされたか確認します。
バックアップROMの装着と注意事項
バックアップROMをPMCカセットに装着する際は、以下の注意事項を守りながら作業を進めてください。
1. 装着前の準備
バックアップROMを装着する前に、以下を確認します:
- ROMチップの識別:バックアップ用のROMに、「H」「L」などの識別を書いておく必要があります。これは、どの位置に装着されるべきかを明確にするためです。
- 静電気対策:体に溜まった静電気がROMや基板を破損する可能性があります。PMCカセットを触る前に制御盤内のアース板に触れる、静電気防止手袋を使用するなどの対策を徹底してください。
2. ROMチップの足の調整
バックアップ用に準備した新品のROMチップは、足(ピン)が外側に広がっていることがあり、そのままではICソケットに差し込みにくい場合があります。このような場合、以下の手順で足を調整します:
- 硬い平面の上にROMチップを置き、軽く押し当てることで足をまっすぐに整えます。
- 無理に力を入れすぎると足が折れることがあるため、慎重に行いましょう。
3. ROMチップの向きの確認
ROMチップには、装着方向を示す切り欠きがあります。この切り欠きが基板やソケットの切り欠きマークと一致していることを確認してください。逆向きに装着すると、以下のリスクがあります:
- ROMチップの破損:電源投入時にROMチップが故障します。
- 基板の破損:ソケットや基板そのものが破損する可能性があります。
4. ICソケットへの装着
- 足は片側ずつ慎重に差し込む
ROMチップの片側の足をソケットに軽く入り口付近のテーパー部分に挿し込み、次に反対側の足を同じくソケットの入口テーパー部分に軽く慎重に押し込みます。いきなり深く押し込むことは避けてください。全ての足がソケット側のピン受け入り口部分に均等に差し込まれていることを確認してください。 - 足の曲がりを確認する
挿入中に足が曲がることがあります。もし足が曲がった場合は、無理に押し込まず、いったんROMを引き抜き、足の曲がりを修正してからやり直してください。修正できないほど曲がってしまわないように、よく見ながらの注意が必要です。 - まっすぐ押し込む
足が全て正しい位置に挿入されていることを確認したら、基板を机の上などしっかりした台の上に置き、全体を真上からまっすぐに、しかも徐々に押し込みます。そしてソケットの奥までしっかり差し込みます。
5. ケースへの組み立て
バックアップROMを装着したPMCカセットの基板は、元のケースに戻して組み立てます。この際、ケースのネジをしっかり締め、内部の基板が動かないよう固定してください。カセット取付用のロングビスを入れ忘れないようにしてください。
バックアップROM装着後の動作確認
バックアップROMを装着したPMCカセットを設備に取り付け復元した後、以下の手順で動作確認を行います:
- PMCカセットの取り付け
制御装置の元のコネクタにPMCカセットを取り付けます。このとき、コネクタに無理な力を加えないよう注意してください。コネクタのピンが曲がると接触不良を起こし、設備が立ち上がらなくなります。 - 設備の電源投入
設備の電源を入れ、正常に立ち上がるか確認します。
動作確認時の注意点
- アラーム発生時の対応
設備の電源を入れた際にアラームが発生した場合、以下の原因が考えられます:- ROMデータのコピーが正確でない。
- ROMチップが正しい位置に装着されていない。
- 装着時に足が曲がって接触不良を起こしている。
アラームが発生した場合は、電源を切り、PMCカセットを再度取り外して原因を確認してください。
- 設備が正常に立ち上がる場合
設備が問題なく立ち上がれば、バックアップROMの作成・装着が成功しています。この場合、元々のROMは機械に戻さず原本として保管してください。
バックアップROMの保管時の注意事項
バックアップROMや原本のROMを保管する際は、以下のポイントに注意してください:
- 静電気対策
保管時も静電気による影響からなるべく遠ざけるため、静電気防止袋に入れるかアルミホイル等でくるんで保存してください。 - 紫外線対策
紫外線消去型のEPROMには小さな窓があり、ここから紫外線が入るとデータが消去される恐れがあります。これもアルミホイルで包むか、紫外線を遮断できるようなケースに入れて保管しましょう。 - 温度と湿度
極端な温度変化や高湿度はROMチップの劣化を招きます。人が快適に過ごせる温度(20~25℃)と湿度(40~60%)の範囲内で保管するのが理想的です。 - 識別の明確化
保管するROMには、設備名やROMの区別(H/L)を明記し、どの設備のROMなのかを一目でわかるようにしておきます。
バックアップが成功した後の設備運用の注意点
バックアップが成功した後も、以下の点に注意して運用してください:
- 定期的なバックアップ
新しいプログラムを導入したり、設備を改造した場合は、必ず再度バックアップやROMのコピーを取りましょう。データ変更後のバックアップがない場合、元の状態に戻すことすら困難になります。 - ROMデータの原本管理
元々のROMデータは、最終手段として使用するため、厳重に保管してください。バックアップが失敗した場合、原本が最後の頼みとなります。
PMCラダー屋.COMのサポート
PMCラダー屋.COMでは、FANUCのCNCやPMCのROMバックアップ作業を支援しています。また、設備のラダープログラムの改造にも対応可能です。ただし、ROM内にPascalやC言語のプログラムが含まれている場合、ラダープログラムの改造は困難になるため注意が必要です。
トラブルやバックアップに関するお困りごとがあればPMCラダー屋.COMのお問い合わせフォームからご相談ください。
この記事では、FANUC 15シリーズのPMCカセットにおけるROMデータのバックアップ方法について詳しく解説しました。設備の故障を防ぐためにも、バックアップ作業をお忘れなく。